働き始めてから2年ほど経った頃、ようやく仕事にも慣れてきました。
アウトバックで働き始めてから2年ほど経った頃、ようやく仕事にも慣れてきました。サイドワークや新人のトレーニングも任されるようになり、自分なりに“周りを見られている”と感じ始めていた時期です。ただその頃の私は、祝日などでお店が混み合うと、どうしても、店全体の慌ただしさに気持ちを振り回されてしまい、余裕を失うことが増えていました。本来一番大切にすべき、目の前のお客様への接客が、二の次になっていたのです。
その日も祝日だったので、17時を回ると、店内はあっという間に忙しい雰囲気になっていました。担当テーブルが次々と埋まり、私も周囲の状況ばかりに意識を取られていました。そんな中、小さな男の子とご両親の三人組が来店され、私が担当することになりました。
男の子は席に着くなり、期待に満ちた目で店内を見回し、メニューに顔を寄せていました。しかし私は、そんな様子を目にしながらも、心が完全に向いていませんでした。表面だけ整えた接客をしつつ、心の中では、お店への不満や焦りばかりが膨らんでいました。それとは対照的に、男の子は料理が届くたびに、嬉しさを隠しきれず、目を輝かせていました。ステーキを見た時の弾むような声や、熱々の料理を前にした瞬間の笑顔は、今でもよく覚えています。その純粋な反応を見るたびに、自分の接客の空虚さに気付かされ、胸が痛みました。
お会計を終え、ご家族が帰る際に、男の子は私に向かって、大きく手を振ってくれました。ご両親からも、温かい感謝の言葉をいただきました。大した接客もできていないはずなのに、その言葉を都合よく受け取ろうとする、自分がいました。しかし、片付けのためにテーブルに戻ると、私の名刺の裏に、まだ書き慣れていない小さな文字で、“料理とてもおいしかったです。ありがとうございました。”と書かれていました。その文字を見た瞬間、とても複雑な気持ちになりました。男の子の真っ直ぐな気持ちと、目の前のお客様ではなく、店の状況ばかりに気を取られていた自分、そのギャップに、強く胸を締めつけられました。私にとっては、数多くのお客様のうちの一組であっても、お客様にとっては、人生で数えるほどしかない来店機会かもしれない。その事実が、名刺の裏の一言から、痛いほど伝わってきました。
この出来事をきっかけに、“お店がどう回っているか”だけに意識を奪われるのではなく、一組一組のお客様に、しっかり向き合う姿勢を大切にするようになりました。外食は、お客様にとって特別な時間であり、ホールスタッフの役割は、その時間を最高のものにすることだと、実感したからです。
あの日の小さなメッセージは、私にとって、今でも忘れられない原点です。これからも、お客様にとっての貴重な来店機会だということを胸にとめて、一期一会の接客を心がけていきたいと考えております。
