そのお客様との最初の接点は、クレームへの対応でした。
8年前の出来事です。そのお客様との最初の接点は、クレームへの対応でした。
案内された席が気に入らない、スープが冷めている、ステーキに筋が多くてナイフで切れない、などなど、次々とご指摘され、厳しいご叱責があり、「この店!どないなってんねんっ!!!」と、ツバを飛ばしながら、怒りがどんどんヒートアップしていくお客様に、私はとにかく出来ることを精一杯して、ひたすら頭を下げ続けました。
その後も3カ月に1度ほどのペースでご来店され、毎度毎度、お叱りを受けることが続きました。私はその都度、ご指摘された内容をメモに取り、次回ご来店の際は、決して同じ過ちをしないように心がけるようにしました。すると、だんだん叱られることが少なくなり、少しずつ世間話もするようになりました。
そのお客様は駒崎さんとおっしゃいます。貿易関係のお仕事をされていて、アメ車とゴールデンレトリバー、そして肉をこよなく愛するおじさまでした。私も実家でラブラドールレトリバーを飼っていたことから、愛犬家同士で意気投合し、親しくさせていただくようになりました。彼は特徴のあるしゃがれ声をしていますので、お店に電話がかかってくると、声だけで彼だとすぐにわかります(笑)。お決まりの台詞が「小川ちゃん!生肉ある?」オリジナルスタイルのプライムリブのことを、彼はいつも“生肉”と呼びます(笑)。日常のお食事はもちろん、お誕生日や結婚記念日、クリスマスは、毎年アウトバックをご利用いただいています。著名人をお連れしてご来店されたこともありました。彼はアウトバックを“大切で特別なお店”だと思ってくれています。私も彼の期待にお応えできるように全力を尽くしました。
年月が経ち、いつの間にか、従業員とお客様という関係の垣根を越えて、それ以上の関係になっていきました。プライベートなお話もたくさんさせていただきました。私はその当時、遠距離恋愛をしていたのですが、彼女に会いに東京へ行くと言うと、「これ彼女にあげて!あんたにちゃうで!」と手土産を持たせてくれたり、自宅にティファニーのペアグラスを送ってくれたりしました。残念ながら、その時の彼女とはお別れしてしまいましたが、いまでも“素敵な思い出”として残っています。
世の中がコロナ禍になり、彼はずっとお店にいらっしゃいませんでした。お電話をしようと思いましたが、「コロナ禍で色々と大変だったら悪いかな?」と思い、しばらく連絡を取っていませんでした。そんなある日、彼の奥さまから一通のメッセージが届きました。
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小川さん
ご無沙汰しております。駒崎です。元気でお過ごしですか?コロナ禍でなかなか外出も厳しく、小川さんのお店にも伺うことが出来ず、ずっと気になっていました。
今日、4月11日は主人の60歳の誕生日なので、いつもならアウトバックステーキでお祝いをするのですが、それが叶わぬことになりました。主人は、昨年、心筋梗塞のために59歳で亡くなりました。お伝えするか迷いましたが、今日この日は特別なので、勇気を持ってご連絡差しあげました。
小川さんのお店に行くと張り切っていたので、心の中で祝っていただけたら嬉しいです。またいつか気持ちが落ち着いたらお店に行かせていただきます。生前は大変お世話になりました。
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メッセージを読みながら、いきなりのことで涙が止まりませんでした。「え?なんで?まだ早すぎるよ。またいつもみたいに怒ってよ。また話聞いてよ。なんで、なんで、なんで・・・。」との思いがこみ上げて、ものすごく辛く悲しかったのですが、私はすぐにお店でデザートプレートを用意しました。そして、彼の指定席の前でバースデーソングを熱唱しました。満面の笑顔で「駒崎さん!還暦おめでとうございます!」と叫びました。その様子を動画に撮影し、失礼を承知で奥様に送りました。
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小川さん
粋なお祝いありがとうございます。亡くなってから感情を抑えていたので、ありがたく、嬉しくて涙が止まりません。主人が照れ笑いして、あの高い声で喜んでいる姿が目に浮かびます。何の前兆もなく、突然のことでしたので、まだ受け止められない状況です。ただ、私の知らない所で倒れたり、事故にあったわけではなく、救急搬送しても助けられませんでしたが、最期を看取れたことは幸せだと思うようにしています。主人はカッとなると、激しい口調で責め立てたと思いますが、愛があっての叱責とお許しください。小川さんのメッセージを糧に、前を向ける様に頑張ります。スタッフの皆さまによろしくお伝えください。
小川さん、還暦のお祝い本当にありがとうございます。
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彼からは、サービスマンとしてたくさんのことを学びました。また、“男とは”、“人とは”といった“人生で大切なこと”もたくさん教えていただきました。本当に彼には感謝の気持ちでいっぱいです。ご冥福を心よりお祈りいたします。