OUTBACKで生まれたちょっといいお話集

お母さまは、温かくキラキラとした、エネルギーに溢れた表情で談笑していました。

池袋

OUTBACKER | YUDAIさん
2025 Vol.8 Episode13

 出勤していたとある日に、「3名様、バースデー、耳が不自由、筆談ご希望。」と、書かれている予約伝達票を受付担当から受け取りました。私は、インターネットでご予約されたご本人さまの耳が不自由で、他の2名さまはそうではないだろうと、勝手に思いながら、バインダーに挟んだ紙に「ご来店ありがとうございます!テーブル担当のYUDAI2(YUDAIが二人いるので“2”がついています笑)です。本日はよろしくお願いします!」と書き、用意して待っていました。
 そのお客様はディナーの早い時間のご予約で、ご来店されたのはお母さま、小学4年生くらいのお兄さん(ずっとポータブルゲームをしていました)、小学2年生くらいの弟さん3名のご家族さまでした。両側ソファ席の向いに息子さん二人を座らせ、お母さまは、温かくキラキラとした、エネルギーに溢れた表情で談笑していました。「なんて素敵で強いお母さんなんだ!」と、その神々しいエネルギーに圧倒されながら、私は用意していたバインダーを持ち、グリーティング(ご挨拶)に向かいました。
 「ご来店ありがとうございます!テーブル担当のYUDAI2です。本日はよろしくお願いします!」まだコロナ禍ということもあり、マスクをしていたので、息子さんたちにはしっかり聞こえるように、お母さんには用意していた文章を見せながらご挨拶をしました。とても耳が不自由とは思えない発声で「よろしくお願いします!」とお母さまがおっしゃり、息子さんたちは少し恥ずかしそうな様子で軽く会釈をしてくれました。この時に、私はあることに気が付きました。”3人とも私の声が聞こえていない”と。
 メニューカンバセーション(メニューの説明)、オーダーのお伺い、内容の確認・・・と、その度に用意していたバインダーの紙は3枚、4枚・・・、と増えていきましいた。「こちらのアペタイザーはハーフサイズもございます。」、「週末限定のプライムリブは…。」、「ノンアルコールカクテルをご注文いただくと…。」、私のとてもキレイとは言えない字で書かれたものに対し、丁寧な字で分かりやすくオーダーをしてくれました。お料理のご提供、ドリンクのお替りなど、一通り終えた時には、気付くとバインダーはソファの片隅に置かれていました。
 食事も落ち着いた頃に、私はそのご家族が団欒されている雰囲気、人と人との言葉を超えたコミュニケーションの温かさに浸りながら、「そろそろBD DOG(誕生日のアイスクリームサービス)をご提供しようかな…。」と思ったのですが、「あ!耳の不自由な息子さんの誕生日をお祝いするには…。歌は聞こえないけど…。ただでさえコロナ禍で歌はNGだしな…。でもどうしても喜んでいただきたい!」と様々な葛藤に苦しみました。頭の中で自問自答していると、ある言葉が浮かんできました。“NoRules, Just Right”。「いつも通り、いや、いつも以上に盛大にバースデーソングを歌おう!」が自分の答えでした。近くにいたサーバースタッフ二人に声をかけ、お客様の状況を説明し、ロウソクに火を付け、テーブルに向かう途中、私はマスクを外していました(口の動きでもっと何か伝わると、その時とっさに思ったのでしょう)。いつもより口を大きく動かし、バースデーソングを歌いました。色々なことを考えた上でしたが、私のとった行動は正しかったかは分かりません。ただ、お見送りの際、エレベーター前で交わした、わずかな会話(もちろん筆談はない)の時間を思い出すと、不思議な人間のコミュニケーションの深みや、思いやり、まごころ、といった言葉の持つ温かみを感じました。その会話は、「お誕生日おめでとう!」と私、「ありがとうございます。」と息子さん、「この子いつもゲームばかりしているのよ!」とお母さま、「どんなゲーム?…めっちゃ面白そうじゃん!」、
「何歳になったの?」と私、「10才になった。」と息子さん、「でも弟の方が大きいんですよ(笑)!」とお母さま、「私も弟がいるんですけど同じです(笑)!」と私、などなど…。
 「ありがとうございました!またお待ちしています!バイバイ、またね!」と、手を振りお見送りを終えました。翌年のお客様の誕生日にお送りするクーポンハガキにご住所をご記入いただいていたので、「あ、ご記入いただいた誕生日クーポンのハガキをホス(受付担当)に渡さなきゃ。」とハガキを手に取ると、「来年のあなたへメッセージを!」の書き込み欄に、ご丁寧な字で書かれたコメントが、ふと目に入りました。
 「またみんなで美味しい料理を食べよう!」