OUTBACKで生まれたちょっといいお話集

連休の始まりに、営業前に受けたご予約のお電話でした。

渋谷

OUTBACKER | MAIさん
2025 Vol.7 Episode10

 連休の始まりに、営業前に受けたご予約のお電話でした。お客様の中に車椅子の方がいらっしゃるとのことでした。当然お手伝い出来ることをお伝えすると、お客様はまだ不安が残るご様子でした。お話をお伺いしていくと、以前に、私が味付けなどでご意見を頂戴していたお客様でした。お母様と40代くらいの女性で、いつもお二人でご来店されていました。週に一回はご来店いただいていて、少しご注文が細かいのと、何かあればはっきりとご意見を仰るお客様で、以前からお話させていただく機会が多く、どのお客様かはすぐに思い出しました。
 久々にお客様がご来店されて、最初に目を疑ってしまったのが、車椅子に乗ったお母様の姿でした。良くおしゃべりされて、お洒落にされていた印象でしたが、髪は短くカットされた白髪で、今はもうお話はされないご様子でした。車椅子に乗ったお姿はとても小さく見え、軽くなってしまわれていました。あのお母様がこんな姿にと動揺してしまいました。
 オーダーの際は、やはり時間がかかりました(笑)。以前は、味が濃いと仰っていたので、サラダのドレッシングも少なめを提案しましたが、「お母さんはここのシーザーが大好きだからいつも通りで。」とのご返答でしたので、「それでは今日は思いっきり召し上がってくださいね!」とお伝えすると、お母様は思いっきりの笑顔になられました。そして、「今日はお誕生日のお祝いだから、このお店に来たかった!」と仰っていただいた時には、「こんな時期にいらしていただいたのだから、ご要望通りに応えたい。」とそればかりでした。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、営業を自粛していた間に、お店が閉まっていた時にも、何度かご連絡をいただいていたそうです。その時は、お母様が入院されて、介護が続いていたことなど、いろいろとお話をしてくださいました。
 お帰りになられる時になり、エントランスでお見送りのためにお待ちしていると、娘さんがそっと近づいて来て、「もう母は長くないんです。今日は体調も良かったので、ここに来られてよかった!ありがとう。」とお話されました。私はお返しできる言葉が見つかりませんでした。だから娘さんは一生懸命だったんだな、と考えると胸が詰まりました。
 どのお客様でも、何かの思いを持って、私たちのお店にいらっしゃいます。この時期ならなおさら、お食事の時間だけでもいろいろな事を忘れて、素敵な時間を過ごし、お家のようにくつろいでいただきたいと強く思いました。そして、この経験からこんなことを思い返しました。デジタル化やこの新型コロナウイルスの影響もあり、飲食店に求められるものは、以前と変わってきています。その中でも、人に寄り添うことは、以前に増して必要不可欠なのではないのでしょうか。人との信頼は簡単には作れないからこそ、積み上げていくものだと実感できた出来事でした。私は、このお客様が少しでも元気になられてまたお会い出来ることを願っています。