朝一番に「おはようございます!」と声を張ると、店の空気がふわっと明るくなる。
品川港南店で働き始めて10年目を迎えたSさんは、いつも常に明るく、品川港南店の太陽みたいな人である。
朝一番に「おはようございます!」と声を張ると、店の空気がふわっと明るくなる。新人がミスをすれば「大丈夫!」って笑って、いつも励ましてくれていた。どんなに忙しくてお店がピリついた空気感でも、Sさんがいる日は不思議と和む。みんながちょっとだけ優しくなれる、そんな存在だった。しかし、ただ優しいだけではなく、時には厳しくアウトバッカーを指導する姿もある。そう、いつも優しい反面、怒らせると怖いのである。ただ叱るだけではなく、その子を褒めることを絶対に忘れない。どんなに厳しくされても、相手の子は最後に大抵笑顔。店長の私も、そんな彼女を手本にすることが多くある。まるで、みんなのお母さん?失礼、お姉さんです。そんなSさんが、ある日の営業終わりにふっと言った。
「お腹に赤ちゃんを授かりました。」
その言葉に、店内は一瞬静かになった。でもすぐ、拍手と歓声がわき起こった。
「えー!やばい!感動する!」、
「Sさんママになるの!?」、
「もう…泣きそう…!」
そして最終出勤の日。いつも通りの笑顔で、でもほんの少しだけ、声が震えていたSさん。いつも以上に忙しい日であったが、Sさんの元気は、いつも以上に店内を明るくしてくれた。スタッフたちは“普通に”見送るつもりだった。だけど、それじゃ終われない。10年分の“ありがとう”は普通じゃ足りない。盛大に見送るために1ヶ月前からサプライズ企画はスタートしていたのであった。
閉店後。スクリーンにサプライズムービー映像が流れた。1年目の写真。そこから、年々変わる制服、仲間、季節、笑顔。「Sさんの『お疲れ様。』に救われた夜が、何度もありました。」、「私が笑えるようになったのは、Sさんの『大丈夫』があったから。」、「次は赤ちゃんに、その笑顔をたっぷりあげてください。けど、たまには私たちにも分けてください。」彼女が10年間お店で苦楽を共にした、スタッフたちからのメッセージ。そして最後には、なんとSさんのお母さん、旦那さんからのSさんへのメッセージ。
Sさんは、もう笑ってなかった。周りのスタッフも一緒になって大号泣。目から涙がぽろぽろこぼれて、でも最後にはやっぱり、いつものあの笑顔で言った。
「辛いことや、苦しいこともたくさんあって、正直アウトバックを辞めようって思うこともたくさんあった。だけど、その分楽しいことや、一緒に頑張ろうって励ましあえる仲間がいてくれたから、ここまで頑張って来られた。10年間、アウトバックで最後まで働けて本当に良かった!みんな本当にありがとうございました!」
店中から拍手が起こった。キッチンもホールも、品川全土で、拍手喝采のスタンディングオベーション…は嘘。
Sさんがお店を去って、産休に入ってから早1カ月。Sさんの明るく元気な姿は店内にない。毎日寂しさはやはり拭えない。だけど、Sさんの作ってくれた空気を、後輩のみんながちゃんと受け継いでくれている。そう感じた1ヶ月であった。Sさんは去ったけれど、あの人の明るさは、10年分、ここにちゃんと受け継がれている。
改めて、Sさんへ感謝。元気な赤ちゃんと一緒にまた会える日を、楽しみにしている。
