OUTBACKで生まれたちょっといいお話集

私の担当するテーブルに、若いご夫婦と5歳くらいの男の子が座られました。

品川高輪

OUTBACKER | SO-TAROさん
2026 Vol.12 Episode1

 それは、土曜日の夕方、ランチタイムの混雑も落ち着いてきた時間帯のことでした。私の担当するテーブルに、若いご夫婦と5歳くらいの男の子が座られました。お子様用の椅子をお持ちすると、その子が(お母様がけんた君と呼んでいました)、少し不機嫌そうな表情で、お父様の後ろに隠れていたのを覚えています。
 ご注文を伺うと、お母様が少し困ったような笑顔で、「この子、玉ねぎが本当に食べられなくて…サラダにも入れないでいただけますか?」とおっしゃいました。お父様も「家でも保育園でも、玉ねぎだけは絶対に口にしないんです。」と苦笑いされていました。
 私は「かしこまりました!」と笑顔でお答えし、サラダから玉ねぎを抜く手配をしました。そして、ご両親が前菜としてご注文いただいたのは、特大サイズのオニオンを丸ごと揚げた、私たちの看板メニュー「ブルーミンオニオン」でした。
 揚げたてのブルーミンオニオンをテーブルにお持ちすると、けんた君の目がキラキラと輝きました。「わぁ!お花みたい!」その純粋な声に、私も思わず笑顔になりました。「美味しいから食べてみてね。」と声をかけて、その場を離れました。しばらくして様子を見に行くと、驚くべき光景が広がっていました。けんた君が、ブルーミンオニオンを夢中で頬張っているのです。
 「おいしい!おいしい!」と目を輝かせながら、一枚、また一枚と手を伸ばしています。ご両親は顔を見合わせて、何か相談するような表情をされていました。お皿を下げに伺った時、お母様が小声で「あの…実は、まだこの子に教えていないんです。これが玉ねぎだって。」とおっしゃいました。私はハッとしました。「どうしましょう…教えてあげた方がよろしいでしょうかね?」迷うご両親。けれど、お父様が「せっかく美味しそうに食べているし…。」と優しく微笑まれました。
 デザートをお持ちした後、お母様が意を決したように、けんた君に優しく話しかけました。「けんた、さっきの美味しかったお花、あれね、実は玉ねぎだったんだよ。」
 一瞬、けんた君の動きが止まりました。私も息を飲みました。次の瞬間、けんた君は不思議そうな顔をして「えー?でも美味しかったよ!」と笑顔で言ったのです。「玉ねぎって、こんなに美味しいの?」その言葉に、ご両親の目に喜びが浮かんでいるのが見えました。お母様が「そうよ、玉ねぎって本当は美味しいんだよ。」と声をかけると、けんた君は「また食べたい!」と嬉しそうに言いました。
 お会計の際、お父様は私の目を見て、「ありがとうございました。まさか、こんな形で玉ねぎを克服できるなんて。」と何度も感謝の言葉をくださいました。お母様も「アウトバックさんのおかげです。本当にありがとうございます。」と声をかけてくださいました。
 それからしばらくしたある日、また、あのご家族が来店されました。けんた君は私を見つけると、駆け寄ってきて、「ぼく、今日も玉ねぎ食べるんだ!」と、満面の笑みで報告してくれました。お母様によると、あれ以来、家でも保育園でも、玉ねぎを食べられるようになったそうです。
 料理には、人を変える力がある。その瞬間を目の当たりにできたことが、私のサーバーとしての誇りです。けんた君の「美味しい!」という笑顔が、今でも私の働く原動力になっています。