「Ryosukeさん、Suzuhaのテーブルでお客さんが呼んでます。」
「Ryosukeさん、Suzuhaのテーブルでお客さんが呼んでます。」
パソコンを打つ手が止まる。誰かがわざわざオフィスまで私を呼びに来るとき、大抵は何かトラブルが起きたときだ。Suzuhaは入社約4ヶ月。近所の大学に通っている大学一年生。お世辞にもまだ一人前とは言えないが、最近は少しずつだが慣れてきた様子。だが、詰めが甘い部分もあり、まだまだ目が離せないアウトバッカーの一人だ。少し嫌な予感。
「どうした?」、「何かSuzuhaの接客にとても感動したらしく、その時にフィールドガイドに興味を持ってくれたみたいで。」
なんだ…。心配は杞憂に終わったが、少し「ん?」と思いながら、オフィスに置いてあったフィールドガイドを手に取り、席を立った。
時間は21時15分。金曜のこの時間にしては、お客様は疎らだ。少し寂しいが、幕張メッセでイベントがない金曜はこんなもんかと思い、お客様のもとへと足を運ぶ。バーカウンター周りのボックス席、一番奥のテーブル。サラリーマンと思われるお客さまが一人でお食事をしていた。見た感じ若めの男性だ。
「お食事中失礼します。店長の〇〇です。」とご挨拶をすると、とても驚いた顔でこちらを見た。「あの、何かありました?」訝しげな表情を浮かべる。
「あ、うちのスタッフの接客を褒めていただいたと聞いたので。」、
「ああ、それでわざわざ来てくれたんですか!」、
「あの、これ良かったら読んでみてください。」とフィールドガイドを手渡す。
テーブルの上を見ると、まだステーキが半分ほど残っていた。しまった、まだ食事中だった。
「失礼しました。食後に改めてご挨拶させていただきます。ごゆっくりお楽しみください。」と伝え、一旦席を離れた。アウトバッカーが褒められたお礼に、テーブルへお伺いをすることが珍しかったため、少し浮足立ってしまっていたのかもしれない。
約30分ほど経った。食事が終わったのを見計らい、コーヒーと共に再度ご挨拶へ伺う。
「コーヒー飲まれます?」、
「え、いいんですか?」爽やかな笑顔だ。
「いやー、彼女の接客にすごく感動して。質問とか、オススメとか、飲み物のおかわりとか、笑顔が良くて。そしたら小さな本を出して、『これに沿ってやってるだけです。』って、言ってたんですよね。アルバイトの子まで、こんなこと考えてやってくれるなんて、メッチャいい会社ですね。」
最初の反応とは裏腹に、よく喋る方だった。仕事の話や趣味、夢の話、家族の話や地元の話、職場が私の父方の実家と同じ岡山だったり、趣味が私の姉と同じ剣道だったりと、共通点がいくつかあり、話がとても盛り上がった。
「うちの会社、支社が東京にもあるんで、良かったら彼女にうちで働かないかって言っておいてください!」、
「いやー、まだまだ外には出せませんよー。」
ふと左手に目を落とすと、閉店の時間。
「いやー、あっという間でしたね!料理も美味しかったし、ホントいい時間でした!」会計を済ませ、お見送りをする。もちろんSuzuhaも一緒に。
扉の外へ出た際に、お客様の会社のTikTokをSuzuhaが良く見ていることが分かり、最後にもうひと盛り上がりし、お客様を見送った。
「すごく褒めてくれていたけど、どんなことをしたの?」テーブルを片付けながら、Suzuhaへ尋ねる。
「メニューに悩んでたんで、色々説明して、オススメしました!そしたら褒めてくれたんで、『これに沿ってやってるんです!』って伝えました!」と笑顔でフィールドガイドを取り出した。
素直に嬉しかった。朝礼や面談時、営業中もなるべくフィールドガイドの話をするようにしているが、アウトバッカーの心に響いているのかはいつも不安だった。しかし、今回の出来事で、少なくともSuzuhaには、フィールドガイドの大切さが伝わっていることを知ることが出来た。Suzuhaがお客様に褒められるほどの接客が出来るようになったことも嬉しかったが、それ以上に、フィールドガイドを大切にしてくれていることがとても嬉しかった。
フィールドガイドを通じて、お客様とアウトバッカーとの繋がりを感じることが出来る。そんなアウトバッカーがたくさん溢れるように。そんなお店になるように。
