OUTBACKで生まれたちょっといいお話集

あの日以来、私はホスピタリティを自分の中で一番大事にしている。

品川高輪

OUTBACKER | UKYOさん
2026 Vol.12 Episode2

 「ご注文はお決まりですか?」と、私はお客さまに聞いた。60代後半の男性の方で、疲れた顔をしていた。たぶん仕事帰りだろう。男は少し苛立った感じで、「まだ決めてない。」と呟いた。もう15分以上もメニューを見ているのに、食事が全く決まっていなかった。目の前には奥さまらしき方が座っていたが、彼女も何も決めていなかった。テーブルの上にあったのは、赤ワインとキンキンに冷えたハイネケン、それに、頼まれたパンだけだった。金曜の夜だったので、二時間制と社員さんから指示されていた。
 時間がなかったため、私は大の苦手であるメニューカンバセーション(メニューの内容をご説明すること)をすることにした。だが、うまく伝えられずに、説明すればするほど、お客さんを混乱させてしまった。料理の知識が足りなかったわけではない。どの肉が柔らかいか、具の載ったシーザーはシェアをお勧めする、ハンバーガーの付け合わせ、そのような知識は持っていた。問題は、私の日本語力と、自覚している少し雑な性格だった。
 私は上京してから、日本語で話す機会がほとんどなくなっていた。その上、上京する前から、私の日本語は東北の訛りがあり、東京では通じないこともたくさんあった。そのため、語彙力の上昇を目指し、アウトバックで働こうと決意した。日本語を使いつつ、英語も時々話せる環境に、身を置きたかったからだ。
 「完全なAmericanにはならないぞ!」と心の中で思っていた。しかし、日本語力を上げるのは難しく、この時の接客は丁寧にはできなかった。最終的に、お客さまはベビーバックリブを頼んだが、私はすっかり落ち込んでしまった。
 その日、別のテーブルに年配の男性二人と女性が座っていた。女性のデザートを持っていったとき、彼女は席にいなかった。そこで私は無意識に、「彼女はトイレに行きましたか?」と言ってしまった。男の一人が少し驚いたような顔をして、「トイレじゃなくて、お手洗いね。」と言った。その瞬間、自分の顔が熱くなった。もちろん分かっていた。お客さまの前では“お手洗い”と言うべきだということくらい。でも緊張していたのか、つい口が勝手に動いてしまい、デリカシーのない発言をしてしまった。  お客さまは少し険しい表情をした。私はすぐに謝って、飲み物のおかわりを聞き、男性の方が「ビールをもう一杯。」と言ったので、オーダーを入力しにいった。それでも、恥ずかしさで頭が真っ白だった。
 オーダーを入力しているときに、他のスタッフから、その男性はレストラン業界で高い位置についていたと聞いた。その瞬間、心の中で「Oh my god, 終わった・・・。」と感じた。恥ずかしいが、仕事は続けなければいけないため、私は新しいビールを持って、再びテーブルへ向かった。お客さまは3人とも席に戻っていて、私は静かにビールを渡した。
 「追加のご注文はいかがですか?」と聞くと、「お会計を。」と返ってきた。気まずい接客が終わるのに対し、少し安心したが、心の中の重さは消えなかった。
 お会計を持っていこうとしたとき、あの男性の方が私に話しかけてきた。「君、もしかして外国から来たの?」と聞いてきたので、「母が日本人で、父がアメリカ人です。13歳までアメリカとイギリスに住んでいました。」と返した。「そうか。日本語、上手いね。」と彼が言った。思わず驚いた。あの状況で声をかけてくるとは思わなかった。たぶん、さっきの出来事もあり、気を遣ってくれたのだろう。そこに、デザートを渡す際に席を外していた女性が戻ってきて、「私もアメリカのハーフなんですよ。」と言った。「どこ州出身ですか?」と私は聞き、「カリフォルニア。」と彼女が言った。「自分の父方はニューヨーク出身です。」自然と会話が弾んで、楽しい瞬間だった。そして、お客さまたちが帰る際、男性は最後にこう言った。「性格良くて話しやすいよ。ゆっくり落ち着いて、もっと自信を持ちなさい!」その言葉が心に残った。
 その時以来、お客さまを接客する際に一番大切なのは、丁寧に接客することと、相手が気持ちよく過ごせるようにすることだと思っている。それが本当のホスピタリティなのかもしれない。その日、私はこれまでよりも少し大きな声で、「ありがとうございました。」と言ってお客さまを見送った。
 あの日以来、私はホスピタリティを自分の中で一番大事にしている。もちろん、日本語も頑張っている。時々、間違えた言葉を発言したり、指示の理解がイマイチな時もあり、他のアウトバッカーに心配させるような出来事もあるので、日本語力を上げるのも必要だ。なにせ私は、青森出身の日本人だから、ちゃんとした日本語を話すのは自分の義務だと思っている。それと同時に、アメリカ人である自分のフレンドリーさも、ひとつの武器だと思う。それを活かせば、お客さまとも、アウトバックの仲間とも、もっといい関係を築けると思う。私はこれからもアウトバッカーとして胸を張り、頑張っていきます!お願いします!